▼ストーリー▼
勧進学園にいる一人の問題児。
遅刻にサボリ。授業中の居眠りに、テストは赤点ばかり。
教師達の頭痛のタネとも言うべきその問題児は、今日もいつものごとく寝坊をし、遅刻しそうになっていた。
「やばーーいっ! 今日は一時間目は体育じゃないかっ! この授業だけは遅れられんっ! よーっしっ! ショートカットだっ!!」
学園のちょうど裏にある山道。
鬱蒼と生い茂る木々が陽光を隠し昼間でも薄暗い場所だが、ここを通れば少なくとも10分は時間を縮められる。
遅刻を避ける為というよりも——遅刻により体育教師の与える罰を避ける為、山道を選ぶ少年。
「はっ、はっ、はぁっ、も、もう少し……うわっ!?」
「ぴよぴよぴよーーーーっ!?」
息せき切って駆けていた少年の足もとには黄色くモフモフした小さな生き物が!?
ぶちゅっ!!!
「ぎゃーーーーーーーっ!?」
グニュッとした感触が靴を通して足の裏に伝わると同時に叫びをあげる少年。
「お、おいっ!? 大丈夫か!?」
慌てて足を上げるが、そこには——
「ぴ……よ……ピ…ヨ…ォ……」
今まさに息絶えたモフモフと黄色く可愛らしかった亡骸が。
「うわぁぁっ!? やっちまったーーっ! 許せっ!! そんなつもりは無かったんだーーっ!!」
亡骸に声をかけるが、既に黄色くモフモフしていた生き物からの反応は無い。
「うぅっ……」
殺生をしてしまった事を悔いながら、小さな穴を掘るとそこに亡骸を埋める。
「うわっ!? もうこんな時間。今は時間が無いけど、後でまた来るから! それじゃっ、ナムナム!」
手を合わせてから、すぐにまた駆け出す少年。
だが、その少年が後で来る事は無かった。
数週間後——
「あ~っ、遅くなっちゃったなぁ」
帰宅部にも関わらず、陽が暮れるまで学校に残っていた鳴和照智が、教室を出る。
既に部活を終えた生徒達の姿もまばらになっている。
照智がこんな時間まで残っていたのは、補習を受けさせられた為。
ただ、それだけならこんなに遅い時間にまではならないのだが——
補習を受けなければならないような酷い成績にも関わらず、補習中に爆●するといった、完全に教師をなめ切った態度が、こんな時間まで居残りさせられた理由となっていた。
「はぁぁ、お腹すいた~」
通常の通学路を通れば、学校から家までは15分以上かかる。
だが、学校の裏手にある山道を抜ければなんと5分で家に着く事が出来た。
「ショートカットするか」
遅刻常習者の照智にとっては、通常の通学路よりも通い慣れた道。
正門からではなく裏門を抜けると、ショートカットの山道へと向かった。
「うぅ、さすがにこの時間になると、ちょっと気味悪いな」
既に陽は暮れている為、電灯も何もない山道は薄暗く少々不気味な雰囲気を醸し出している。
「そう言えば、この辺り●●だか変質者だかが出るって話だったよなぁ……」
この山道ショートカットを使っているのは照智だけでは無かった。
何人もの学園の生徒が使っているのだが、数週間前から変質者が出ると、生徒達の間で噂になっていた。
「うぅっ、まぁ、俺は男だし……いやいや、しかし男好きな変質者だったら?」
ブルッと寒気を感じると、何とも心細くなってくる。
「か、帰ろう……」
自分に言い聞かせるように呟いた照智が足を踏み出そうとしたその時——
びゅんっ
照智の耳元を、いきなり鋭い風が吹き抜ける。
「え……?」
何が起こったのかと眼を見開いた照智が、自分の耳に手を当てると——
びゅんっ!
再び鋭い風が、今度は首筋を吹き抜けていった。「出ましたね! 覚悟なさい」
脳天に突き刺さるような鋭い声に、金縛りにあったように動けなくなってしまう照智。
「あぅっ、あの……覚悟って……」
闇の中から現れたのは、目のやり場に困るような薄い布地を纏っただけの女性。
「わわわわっ!? 変質者って痴女だったのっ!?」
「誰が痴女ですかっ!?」
「んっ? この声は……富樫先生……?」
聞き覚えのある声だと思ったら、日本史の授業を担当している『富樫 沙弓』だった。
「富樫先生が……痴女……?」
「痴女ではありません! 私は……今は説明をしている暇はありません。用が無いのなら、すぐに帰りなさい。ここは……っ……!!!!!」
富樫先生の声が途切れたかと思うと、照智は背後で感じた激しい悪寒に全身を硬直させる。
「うぁっ、あぁ……」
「くっ、男の影に隠れていたのか! ちょうど良いわねっ、この場で封じる!」
「え? え!? あのっ! ちょっとぉーー!?」
十分な盛り上がりを見せる胸。その胸の中から、何か鋭いものを取り出す巫女さん。
くないのような物の束の部分には、札が取り付けられている。
その、取りあえず刺さればすごく痛そうなくないを両手にいっぱい持つと、その切っ先を照智の方へと向けた。
「先生っ!! 刃物は人に向けちゃいけないんですよ!? ●●の頃に習いませんでしたか!?」
この意味不明な悪寒は、くないを向けられているせい?
気を動転させながらじりじりっと後退ると——
「動くなっ!」
捕らえた獲物を逃すまいとするように、鋭い声が放たれる。
その声によってまた金縛りにあったように動けなくなってしまう照智。
「あぅっ、あぅ、お、お助けを~、も、もう先生の授業で居眠りも早弁もしませんので~」
「…………」
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