「この辺りはトサボリ、別名追剥ストリートって言ってな、
悪徳商人から日銭を巻き上げようっていう悪辣なる武装難民が出没するんで有名な場所だ。
だから急いで歩け。
奴らは悪徳商人の持つ金にしか興味がねえ。襲われれば皆殺しにされる」
チョビ髭オヤジはそう悪態をついて先に見える川にかかった橋を見やる。
「誰が悪徳商人だ、コノヤロー!」
「わっ!? お、俺言ってないッスよ!?」
陸郎は「武装難民でも●●商人でも何でもきやがれだ」と内心呟きながら、
こうなった経緯を思い出す。
何故、●●商人に連れられているかを。
* *
「せっかく京都に来たんだ! アミダハラに行ってみようぜ」
冒険は友人の興味本位な提案から始まった。
アミダハラ、日本最大の廃棄都市を見学しようというのだ。
修学旅行の思い出と土産話のために。
廃棄都市アミダハラはかつて日本第三の都市として栄えていたが、米連と中華連合の代理戦争となった半島紛争のとばっちりを受けた性質の悪い弾頭のミサイル攻撃で都市は廃墟となった。
その後、魔界に通じる境界を中心に魔界の住人たちが住まい始めると無法者たちが集まり始め、10年余りで日本最大の廃棄都市に成長した。
この場合、成長と言えるかどうかは別にして、ともかくも大きな町となった。
町が大きくなると、無法と法治の境目に巨大な歓楽街が形勢され、”無法ならではのサービス”を求める客が全国から殺到し廃棄都市の収入源となって、また廃棄都市を成長させてゆく。
そんな廃棄都市アミダハラに学生が興味を抱くことは必然の流れであったが、好奇心のあまりアミダハラは日本で最も危険な町であるという認識を忘れさせてしまった。
陸郎も町の奥地に迷い込んで●●商人に浚われるまでは完全に失念していたのである。
* *
大正時代に架設されたという橋を渡り始める。
「こんな事なら小遣い惜しまず皆と娼館入っておけば良かったな……」
「はぁ……皆、心配してるだろうな……」
「だいたい童貞のまま、俺、死ぬのかな……」
「おい! ブツブツ言ってねえで早く歩け!」
●●商人の部下がカラシニコフの銃口で陸郎をつつく。
「わ、わかったよ!」
陸郎は運命を呪いつつ、●●仲間の隊列に早歩きで追い付こうとする。
パァンッ!!!!
銃声が響く。
同時に陸郎を怒鳴り飛ばした●●商人の部下が陸郎に覆いかぶさる様に倒れる。
頭に風穴をあけて。
「ひぃいいい!!!」
さらに数発の銃声。
●●たちの悲鳴。
「なんだよ! いったいなんだよっ!!!!」
陸郎は必死に死体となった男をどけて周囲を確認する。
橋の両側から銃を持った男たちが発砲している。
●●商人が言っていた追剥稼業の武装難民だろうか。
「これって完全に待ち伏せじゃないか!!?」
パニックになった●●の一人が立ち上がって逃げ出そうとして蜂の巣にされ倒れる。
それを見た●●はまたパニくって立ち上がり射殺される。
「あははは……人が次々死んでいくよぉ………あははは……」
修羅場となった橋上で陸郎の意識が現実逃避を始める。
このまま帰れれば最高の土産話となるが現在の状況では冥土の土産コースが濃厚だ。
「神さま! 助けてくれたら俺、何でもします!」
今は自らの運命を嘆いて神に祈る事しか出来なかった。
教会に行った事も神社に参った事もないのだが。
陸郎は頭を抱え地を這う。
橋の上なので逃げ場がない。
ヒュンヒュン!!!!
耳のすぐそばを銃弾が通過する。
陸郎は地に張り付きながら目をつぶり震えるしかできない。
「か、神様っっ!!!」
「神に祈るなら死んでからにしなさい」
「えっ?」
陸郎はおそるおそる見上げると銃弾飛び交う中、トランクを持った長身の美女が立っている。
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