人里離れた山奥の、深い森の先にある鬼方村。
そこは、時代の流れに捨てられた、今はもう誰もいない廃村のはずだった。
両親を早くに亡くし、妹、由水(ゆみ)と二人暮らしをしている心優しい青年、鬼方純一(おにかたじゅんいち)。
夏のある日、彼は20年前に鬼方村で消息を絶った祖父が、家族にあてて最期に残した手紙を見つける。
――私は、見つけてはいけない物を見つけてしまった。
純一は、その手紙に奇妙に引きつけられるものを覚え、心配する由水をなだめつつ、一人で鬼方村に赴くことを決める。
すでに廃村となっている鬼方村、そこに向かう途中で純一は、かつて祖父だけではなく、村の男たちが一斉に失踪していたことを知る。
20年前、村で何が起こったのだろうか。
そして、純一が見た哀しい夢。
『さようなら』
少女はそう言って、永遠の別れに向かっていった。
夢の中で純一は、会ったこともないその少女の名を呼んでいた。
あやめ――と。
ざわめく深い森を抜け、たどり着いた鬼方村。
そこは紛れもなく、人の支配から完全に離れ、朽ち果てた孤独な世界だった。
その夜、祖父の屋敷に泊まった純一は、またしても同じ少女の夢を見る。
夢の中で、少女は●されていた。
真っ黒な花嫁衣装に身を包み、美しい顔を苦悶に歪めながら、あやめと呼びかけに懸命に微笑もうとしていた。
奇怪で淫靡な夢。
目覚めた純一は、自分が見覚えのない場所にいることに気づく。
傍らに横たわっている怪しい木箱。
純一は、好奇心から蓋を開けてしまう。
入っていたのは、夢の中で別れ、夢の中で●した少女そっくりの――人形だった。
そして、純一の前にその人形にうり二つの、あやめを名乗る少女が姿を現す。
他に誰もいない村で、惹かれあっていく二人。
あやめは何者なのか。
徐々に明らかになる、鬼方村に隠された秘密とは。
純一とあやめに迫る哀しい運命とは。
そして、全てが明らかになったとき、純一が選ぶ答えとは――。 |