放課後の補修授業。
「はぁぁ、今日も補習か~」
と成績急降下中の主人公『岩屋 勝』は嘆息する。
主人公が、現在直面しているのは、成績低下に伴う留年の危機。
にも関わらず、一向にやる気の無いまま補習に参加している状態だった。
その様子を見つめる一つの視線。
それは補習を受け持つ女教師『岩屋 澄香』から。
(このままじゃ、勝さんが留年してしまう……何とかして勝さんに勉強をしてもらわないと……)
彼女は主人公の義理の母でもあった。
主人公の父親と再婚し、その父親が亡くなってからは女手一つで主人公を育てている。
澄香は日毎に大人の男へと成長してゆく義理の息子を見詰めつつ、留年をさせるわけにはいかないとマンツーマンの個別授業を始める事を決意する。
「勝さん、ちょっと良いかしら……」
生徒たちがはけた補習後の教室で、普段は柔和な笑みを絶やさない澄香が、いつになく真剣な顔になって主人公に語りかける。
「明日からは、私が勝さんの勉強を見ますから」
きっぱりと宣告するような澄香の言葉。
「えぇ~~!?」
勝に代わって驚きの声を上げたのは主人公の幼馴染である『岩屋 倫』であった。
彼女は澄香の前の夫の間に生まれた娘であり、今や主人公にとっては義理の妹となっている。
「倫? あなた帰ったんじゃないの?」
「帰ってないもん。勝を待ってたの!」
「突然大きな声を出して。びっくりするじゃない」
「だって……」
倫が思わず驚きの声を上げてしまった原因は――
(勝をママに取られちゃう!!)
という直感であった。
否、直感だけではない。
主人公が幼い頃、澄香に憧れにも似た感情を抱いていたのを倫は知っている。
その澄香が主人公の父親と結婚したときの落ち込みようも。
学校でも魅力的な教師として生徒から抜群の人気を誇る澄香。
その母親を誇らしく思う一方で、大好きな主人公を母親に取られてしまうかもしれない。
そんな焦りを抱く倫は、自分もまた主人公の勉強を見ると言い出す。
「遊びじゃないのよ倫。このままじゃ、勝さん、留年するかもしれないの。だから……」
嗜める澄香の言葉にも、倫は耳を貸さない。
もっとも、学年でトップクラスの成績を誇る倫は、十分に主人公に勉強を教える資格はあった。
(ママには負けないもん!!)
女の勘が倫を突き動かす。
”ママと主人公を二人きりにしてはいけない”と。
そして自分の存在を主人公にもっと感じてもらいたいという思いが倫の背中を押す。
”一線”を超えた行動へと。
こうして無意識に構築された”絶妙な三角関係”がほころび始める――
一方の澄香は倫と主人公が今まで以上に仲良くベタベタしているのを見て、不思議な気持ちになってゆく。
(倫ったら、また勝さんにあんなに甘えて……)
息子を彼女に取られる母親の複雑な気持ち?
好きな人を取られたくないという気持ち?
自分の気持ちが良く分からなくなる澄香は、とにかく倫に主人公とべたべたしないようにと注意をする。
「倫、勝さんが困ってるでしょ……そんなにくっつかないの。もう子供じゃないんだから」
注意する声にこめられた澄香の感情に、倫が敏感に気付く。
倫の対抗心に火が点くと同時に澄香の心にも――
母親として教師として、そして――
女として倫への対抗心が、澄香の心の中で静かに燃え始める。
勉強を見るという事をキッカケに、母と娘の主人公争奪戦が勃発しようとしていた……!!
「俺、一言しか喋ってないかも……!?」
とらぶる ”H ”OME! 開幕です。 |