武術大会を一週間後に控えて忙しいらしい北海は、東悟に笑顔を振りまきながら校門に向かっていった。
「……なにが言いたかったんだ北海のやつ? と、そういえば秋葉、さっきなにか言いかけたろ?」
「えっ? あっ、うん……いいよ、また今度でっ」
さっきから歯切れの悪い秋葉に首を傾げる東悟だったが、北海が入っていった校門の方が気になった。
そこにはちょっとした人集りができていたからだ。
人が多くなるのはもう少し時間が経ってからなのにと思いながら、二人は校門を潜ろうとする。
「待て、青龍東悟」
凜とした声に呼び止められて、東悟は振り返る。
そこには東悟が憧れている、上級生の朱雀夏姫の姿があった。
「す、朱雀先輩……!?」
いきなり憧れの人に声をかけられて、東悟は困惑する。
まさか先輩が自分のような者に声をかけてくれるなんてと夢見心地になる一方で、夏姫が放つ気高い雰囲気に呑まれて、少し緊張してしまう。
「おっ、おはようございます朱雀先輩……!」
「うむ」
夏姫はゆっくりと頷いて、東悟をじっくり観察する。
それこそ頭から爪先まで、値踏みするように。
その夏姫の視線を遮るように、秋葉が東悟の前に立つ。
「おはようございます、朱雀先輩」
「うむ、おはよう秋葉。なるほど、先手を取ったのだな」
「ち、違います……! これは……いつものことです」
「そうか、手ぬるいな秋葉。武術大会が終わるまで、私は遠慮などせぬぞ」
「うっ……! わ、私だって、先輩には負けません!」
必死に返す秋葉を尻目に、夏姫は足音もなく東悟に忍び寄り、後ろから羽交い締めにした。
胸を東悟の背中に、そして東悟の首筋に手刀までも押し付けながら。
「四ッ神流最強の遺伝子はこの朱雀夏姫がいただく。さあ、放課後には子作りを始めるとしよう」
「こ、子作り!?」
「プールに必ず来い。でなければお前を亡きものにする」
「ひえぇっ!?」
「なにやってんですか先輩! とっ、東悟と結婚するのは……私ですよ! そ、それに一番に子供を孕ませて貰うのは……わ、私なんですから!」
「けっ、結婚!? 孕ませっ!?」
秋葉が東悟を奪い返す。
秋葉は顔を真っ赤にしながらも、しっかりと東悟の腕に身体を寄せる。胸を腕に押し付けながら。
「くっ。秋葉、やはりお前とは一度白黒付けねばな」
「望むところですよ先輩!」
二人の闘気がぼっと燃え上がる。
「ふん、覚えておけ青龍、お前と婚約をするのは朱雀夏姫だ」
そう言って夏姫は校舎へと入っていく。
「東悟……! 東悟と結婚するのは私だから……! 先輩になびいたりしたら……私、東悟のこと力ずくで振り向かせるから覚悟しといて……!」
「ひぃっ!?」
完全に事情を飲み込めていない主人公・東悟を華麗に置き去りにして、今、なんとなく何かが起ころうと、恐らくしているようでしていないようでいたのだった……!!
ちなみに学園恒例の学園最強を決める格闘大会が近いぞ!! |