部屋の中で、目覚まし時計が鳴り響く。
ところが、誰も目を覚まさないのか、それをとめる者がいない。
いつまで経っても鳴りやまないアラームの音。
さらに、もうひとつ、またひとつと、たくさんの目覚まし時計が鳴りはじめる。
誰かが壁をどんどん叩いて、怒鳴っているが、それでも部屋の主は目を覚まさない。
さすがに業を煮やしたらしく、扉が開いて、寝間着姿の3つの人影が部屋にはいってきた。そして、全部のアラームがピタリととめられる。
「もうっ、うるさ――い! うるさい、うるさい、うるさいッ!!」
「そんなに怒らないであげて。
薫くん、きっととってもくたびれているんだわ。
だって、昨日の夜はあんなに……」
「だけど、こんなのでよく寝てられるわね?
神経図太いって言うか、鈍感って言うか……」
「それにしても、可愛い寝顔しちゃって……。センセイ、襲っちゃわよ♪」
「それはだめ! あたしの目の前でそんなことしたら、ぶち殺すわよ!」
「あっ……ほら、2人とも静かにして……。薫くん、起きたみたいよ?」
「う、う~ん……。あれ? ココ、俺の部屋だよね? どちらさま?」
「ど、どちらさまって……。
ダーリンのばかあっ!! このあたしを忘れるなんて
寝惚けてても許せない!」
「うふふっ、まだ目が覚めてないみたいね……。
それじゃあ、おはようのキスしてあげましょうか?」
「コラコラ……抜け駆けはだめって言ったでしょう?
忘れたの?
それより、さっさと起きなさい、一条くん……」
「ああっ!? 美咲先生!? どうして、ここに?」
「それに、ひとみお姉ちゃんまで!」
「それから……え――っと、誰だっけ?」
「鈴音よ、鈴音ッ!!
愛しい新妻の顔を忘れるなんて、信じらんない!」
「新妻? 妻? 奥さん?
ん、ん、ん?
そう言えば、昨日何かあったような……」
「あああああ――っ!?」
主人公・一条薫は、旧家の御曹司だが、高校を卒業した後で実家を跳び出してしまい、進学するでも就職するでもなく、アルバイトをしながらひとり暮らしをしている。
薫は名家に生まれたにも関わらず、おばあちゃん子だったおかげで、ごく普通の家の出だった祖母の影響で、ほとんど一般人として育ってしまったのだった。しかし、家族はそんな薫のことをまったく理解できず、彼の将来を案じて一計を案じる。
「えっ? まさか、美咲先生!?」
「ハ――イ! お久しぶり、一条くん! 元気してた?」
最初に高校時代の恩師だった、英語教師の星野美咲が薫の家を訪ねてくる。
「あの……こんにちは……。こちら、一条さんのお宅ですよね?」
「もしかして……ひとみお姉ちゃん!?」
次に隣のお医者さんの家のお姉さんで、いまは看護師をしている御厨ひとみが。最後に、子どものころに遊び友達だった、お嬢さまの椎名鈴音が黒塗りのリムジンで乗り付けてくる。
「うわっ!? まさか、鈴音って……あの鈴音か!?
昔よくうちに遊びに来てた? 椎名のおじさんのところの?」
「他に誰がいるって言うのよ! この恩知らずの薄情者ッ!!」
「だいたい、あたしのほうがお姉さんなんだから!
鈴音さんって呼びなさい! 鈴音さんって!」
しかも、3人は、全員薫と結婚することになったので、この家で同居すると言い出す。そんなこと聞いてない、とびっくりする薫。
すると、鈴音は薫の父から縁談の話があったのだと打ちあける。
「えっ? 親父から?」
「ええ、そうよ! おじさまから、心配ないから全部
まかせておけって言われてたのに!」
さらに、ひとみも祖父から、美咲も母から縁談を持ちかけられたのだと言う。
「わたしも……。お爺様から話は通してあるって言われて……」
「さっき言いかけたけど、私はお母さんから……」
「……それって、どういうこと?」
ますます訳がわからず、困惑する薫に、祖父から電話がかかってくる。
『薫か? どうやら、いろいろと偶然が重なってしまったようでな……』
「どういうことだよ?」
『いや、それがな……なんとお前の父母とわしが勝手に提出した
婚姻届けが3通とも受理されてしもうてな♪』
「……おい」
『わははははは! 皆、考える事は一緒じゃわい」
「わはは……じゃないだろ」
『まあ、頑張って一人選べ』
「ええ!? い、いや、ジイちゃんそうじゃなくて……!」
『重婚は駄目じゃぞ♪』
絶句する主人公。
そこに3人の荷物を運んできた引っ越し業者のトラックが次から次と薫の家の前に止まる。
「一条くん。何だかわからないけど、君は先生と結婚しなさい。いいわね」
「ちょっとおばさんっ! 馴れ馴れしく薫にさわらないでくれる!」
「だ、誰がおばさんよ! 失礼な小娘ね」
「まあまあ二人とも。それじゃあ、私は薫くんの部屋に荷物を運んでください」
「ちょっと待てぇー!!」
『こうして薫の一週間ドキドキの共同性活がいまはじまる事に』
ガチャン ツー ツー ツー…
「じ、じじいぃーーー!!!」 |