「あ、お前、カツカレーか、一切れよこせよ」
「日替わり定食、今日は揚げ物メインか。今月小遣い厳しいしコレにすっかな」
学生が学園の食堂で賑わっている。
学園の食堂の評判は教師や生徒達からも絶大な人気を誇っている。
そんな食堂を切り盛りしているのは、学園でも有名なおしどり夫婦である。
「はい、おまちどうさま。コロッケ定食だよ」
生徒に定食を渡した清潔感ある男性がこの食堂や学園の寮を
管理運営している狩野隆郁である。
「はい、あなた」
彼をサポートをし配膳をしている活発で元気な女性が、
妻であり、一児の母-狩野真琴であった。
彼女は学園の体育教師を務めており、
教職の傍ら食堂が忙しいときは夫の手伝いをするのが日課であった。
「隆郁さん!先生!俺カツ丼特盛りでよろしく!」
「こら、5限目は私の授業でしょ?動けなくなっても知らないわよ?」
「大丈夫♪ 俺ってば成長期だし、ね!」
「まったく……」
「あはは」
友達のような気軽な態度で和気藹々と生徒達とも付き合っている。
「真琴、ピークはそろそろ過ぎそうだから
上がっても大丈夫だよ。いつも手伝ってくれてありがとう」
隆郁は優しげに真琴に笑みを浮かべ、労っている。
「すみません。コロッケ定食お願い出来ますか?」
1人の男子教師が食券を見せ注文をしてくる。
「あら、安野先生ずいぶんと遅いお昼ご飯ですね」
「ええ、次の授業で返すテストの採点に
少し時間を取られてましてね」
真琴に食券を渡し、安野は困ったように肩をすくめる。
肩をすくめた男は安野史郎。隆郁ほどではないが優男という
感じの風貌の数学教師である。
「こんにちわ、安野先生」
「隆郁さんもこんにちわ。相変わらず仲が宜しいですね」
教育実習生時代に訪れたこの学園に真琴は教師として数年前に戻って来た。
そこで出会ったのが隆郁であった。
年頃の男女は互いに惹かれあい2年前に籍を入れ
2人の間には幼い息子まで授かっていた。
「そうだわ学年主任に水泳大会の予定表を出さないと
いけなかったわ」
夏間近で学園イベントの多さで忘れてしまっていたのだろう。
「もう行くのかい、真琴。ご飯はいいのかい?」
「ええ、後で頂くわ。では、安野先生失礼します」
生真面目な性格に従って、
真琴はそれだけを言って、食堂を後にする。
「あ、そういえば隆郁さん」
と史郎が隆郁に話を持ち出す。
それはこの学園の学園長である白石加菜子が進めている
大学の食堂に隆郁も出店の参加を計画していた。
この話は初め加菜子から史郎に話が振られ
学園の食堂を経営している隆郁を推薦し話を持って行ったのであった。
隆郁はその話を聞き嬉しい反面、諦めるしかないと考えた。
理由は、多額の金額が必要で現在学園の食堂や寮を経営している隆郁には
融資を受けれない金額であった。
それを史郎は隆郁からきくと、知り合いの業者に言って
お金を借りてみてはと話を持ち出す。
隆郁は険しい表情になるも、史郎が隆郁の作る食堂の味を絶賛し、
産まれた子供の純一君や真琴さんを驚かせ楽な生活をさせましょうと
言葉巧みに彼をその気にさせたのであった。
「融資の方、どうなりそうですか?」
「先方も前向きに乗り気で上手く話を纏めて貰っていますので
少しだけ待って頂ければ良い返事が聞けますよ!」
ほっと顔をほころばす隆郁。
そして、大学の出店に関してもほぼ決まっているらしく
それを今から学園長に会い、尋ねるとの事を伝える。
史郎の顔は明るく元気に心底喜んでいるようである。
隆郁はそんな史郎の態度をみ、礼を言う。
「本当に安野先生にはお世話になりっぱなしでありがとうございます。」
「いやいや、そんな事はありませんよ。
いつも狩野さん達にはお世話になっておりますので
これくらいさせて貰って当然ですよ」
そして史郎は狩野と雑談しながら食事を済ます。
すると学園長から呼び出しを受け、安野は学園長室に向かう。
「大学食堂出店の件ですが、ほぼ狩野さんで決まりよ。」
と、喜ばしい事を学園長である白石加菜子から聞かされる。
「それは良かったです」
と史郎は加菜子の前でほっと安堵する。
そして加菜子は隆郁に渡して欲しい書類があると言って
机の引き出しから書類を出し、史郎に渡す。
「これを狩野さんに渡しておいてください」
「分りました。書類と大学の食堂の件私の方から伝えておきます」
と史郎が加菜子から書類を受け取ると、
史郎の顔つきが一瞬毒々しく歪む。
「あ……」
史郎のその顔に加菜子が反射的に声をこぼす。
史郎にどうかしましたかと聞かれ萎縮してしまう。
そんな加菜子を見て鼻で笑う仕草をすると史郎は一礼をし
学園長室から退出する。
廊下を歩く史郎の歩幅は自然と早くなる。
生徒も誰もいない廊下になると、
「さて、これで全ての材料が揃った……」
と書類を見て悦ぶ。長い長い間ずっと溜めていた感情と
進めていた計画がやっと身を結ぶことに皆には見せない笑みを浮かべる。
「くはは、これでとうとう自分のものになる……」
廊下の窓からはグラウンドが見え生徒達が体育の授業を
楽しそうに行っている。もちろん教師は狩野真琴である。
史郎の真琴に向ける視線は歪んだ愛情が乗っている……
「さぁ、真琴……教育実習生時代に戻って
2人だけの絆を深めよう……」
そうして、史郎は喜々とし歩いていく……
「日替わり定食、今日は揚げ物メインか。今月小遣い厳しいしコレにすっかな」
学生が学園の食堂で賑わっている。
学園の食堂の評判は教師や生徒達からも絶大な人気を誇っている。
そんな食堂を切り盛りしているのは、学園でも有名なおしどり夫婦である。
「はい、おまちどうさま。コロッケ定食だよ」
生徒に定食を渡した清潔感ある男性がこの食堂や学園の寮を
管理運営している狩野隆郁である。
「はい、あなた」
彼をサポートをし配膳をしている活発で元気な女性が、
妻であり、一児の母-狩野真琴であった。
彼女は学園の体育教師を務めており、
教職の傍ら食堂が忙しいときは夫の手伝いをするのが日課であった。
「隆郁さん!先生!俺カツ丼特盛りでよろしく!」
「こら、5限目は私の授業でしょ?動けなくなっても知らないわよ?」
「大丈夫♪ 俺ってば成長期だし、ね!」
「まったく……」
「あはは」
友達のような気軽な態度で和気藹々と生徒達とも付き合っている。
「真琴、ピークはそろそろ過ぎそうだから
上がっても大丈夫だよ。いつも手伝ってくれてありがとう」
隆郁は優しげに真琴に笑みを浮かべ、労っている。
「すみません。コロッケ定食お願い出来ますか?」
1人の男子教師が食券を見せ注文をしてくる。
「あら、安野先生ずいぶんと遅いお昼ご飯ですね」
「ええ、次の授業で返すテストの採点に
少し時間を取られてましてね」
真琴に食券を渡し、安野は困ったように肩をすくめる。
肩をすくめた男は安野史郎。隆郁ほどではないが優男という
感じの風貌の数学教師である。
「こんにちわ、安野先生」
「隆郁さんもこんにちわ。相変わらず仲が宜しいですね」
教育実習生時代に訪れたこの学園に真琴は教師として数年前に戻って来た。
そこで出会ったのが隆郁であった。
年頃の男女は互いに惹かれあい2年前に籍を入れ
2人の間には幼い息子まで授かっていた。
「そうだわ学年主任に水泳大会の予定表を出さないと
いけなかったわ」
夏間近で学園イベントの多さで忘れてしまっていたのだろう。
「もう行くのかい、真琴。ご飯はいいのかい?」
「ええ、後で頂くわ。では、安野先生失礼します」
生真面目な性格に従って、
真琴はそれだけを言って、食堂を後にする。
「あ、そういえば隆郁さん」
と史郎が隆郁に話を持ち出す。
それはこの学園の学園長である白石加菜子が進めている
大学の食堂に隆郁も出店の参加を計画していた。
この話は初め加菜子から史郎に話が振られ
学園の食堂を経営している隆郁を推薦し話を持って行ったのであった。
隆郁はその話を聞き嬉しい反面、諦めるしかないと考えた。
理由は、多額の金額が必要で現在学園の食堂や寮を経営している隆郁には
融資を受けれない金額であった。
それを史郎は隆郁からきくと、知り合いの業者に言って
お金を借りてみてはと話を持ち出す。
隆郁は険しい表情になるも、史郎が隆郁の作る食堂の味を絶賛し、
産まれた子供の純一君や真琴さんを驚かせ楽な生活をさせましょうと
言葉巧みに彼をその気にさせたのであった。
「融資の方、どうなりそうですか?」
「先方も前向きに乗り気で上手く話を纏めて貰っていますので
少しだけ待って頂ければ良い返事が聞けますよ!」
ほっと顔をほころばす隆郁。
そして、大学の出店に関してもほぼ決まっているらしく
それを今から学園長に会い、尋ねるとの事を伝える。
史郎の顔は明るく元気に心底喜んでいるようである。
隆郁はそんな史郎の態度をみ、礼を言う。
「本当に安野先生にはお世話になりっぱなしでありがとうございます。」
「いやいや、そんな事はありませんよ。
いつも狩野さん達にはお世話になっておりますので
これくらいさせて貰って当然ですよ」
そして史郎は狩野と雑談しながら食事を済ます。
すると学園長から呼び出しを受け、安野は学園長室に向かう。
「大学食堂出店の件ですが、ほぼ狩野さんで決まりよ。」
と、喜ばしい事を学園長である白石加菜子から聞かされる。
「それは良かったです」
と史郎は加菜子の前でほっと安堵する。
そして加菜子は隆郁に渡して欲しい書類があると言って
机の引き出しから書類を出し、史郎に渡す。
「これを狩野さんに渡しておいてください」
「分りました。書類と大学の食堂の件私の方から伝えておきます」
と史郎が加菜子から書類を受け取ると、
史郎の顔つきが一瞬毒々しく歪む。
「あ……」
史郎のその顔に加菜子が反射的に声をこぼす。
史郎にどうかしましたかと聞かれ萎縮してしまう。
そんな加菜子を見て鼻で笑う仕草をすると史郎は一礼をし
学園長室から退出する。
廊下を歩く史郎の歩幅は自然と早くなる。
生徒も誰もいない廊下になると、
「さて、これで全ての材料が揃った……」
と書類を見て悦ぶ。長い長い間ずっと溜めていた感情と
進めていた計画がやっと身を結ぶことに皆には見せない笑みを浮かべる。
「くはは、これでとうとう自分のものになる……」
廊下の窓からはグラウンドが見え生徒達が体育の授業を
楽しそうに行っている。もちろん教師は狩野真琴である。
史郎の真琴に向ける視線は歪んだ愛情が乗っている……
「さぁ、真琴……教育実習生時代に戻って
2人だけの絆を深めよう……」
そうして、史郎は喜々とし歩いていく……