大陸全ての種を巻き込み光と闇の勢力が激突してより数年―――
闇の領袖、魔王ゼロムスが倒された後、人間種が全盛の時代を迎えようとしていた。
「我等が偉大なる皇帝を称えよっ!!」
重々しい金属甲冑に身を包んだ騎士達が剣を構え、その忠誠の主たるものに最敬礼する。
聖セイルヘルム帝国の初代皇帝、主人公・カイル=ヴァン=ガノッサに。
主人公は闇の勢力との大戦が終結すると、その残存勢力の掃討を進めながら、人間勢力の統一を目指し数々の謀略により政敵を次々と失脚させ、完全統一の実現まであと一歩のところまできていた。
最も邪悪なる祭壇”魔王の間”まで辿り着き、魔王ゼロムスを討ったの7英雄の一人となった主人公には民衆の絶大な支持があり、そして最も古き高貴な血をひいた特別な王族の正統である主人公の覇業に異議を唱えるものはいなかった。ただ一人を除いては……。
「閣下」
主人公の腹心であり、優秀な魔導師であるダークエルフの女ミリアがそっと主人公に耳打ちする。
「セィル派の動向について報告が……」
「セィル派ではない、我が帝国にあだなす反乱軍だ」
主人公は同じく魔王ゼロムスを討ったの7英雄の一人であり、実の兄の名を聞いて不快感を示す。
公的には死んでいる者の名あり、王座から追い落とすのに成功したものの暗殺に失敗した唯一の敵、ただ一人主人公の覇権を邪魔する憎い敵の名である。
(俺が全てを奪ってやると誓った兄セィル……もうすぐ最後の仕上げだ)
その時、使者の到来を告げる声があがる。
「聖フィルハイム王国のエルフ族の使者にございます!」
「くく……ついに来たか。ミリア、今は下がれ」
「御意」
主人公の前に通された高慢な態度のエルフの使者が述べる。
「皇帝閣下は、”王族”とエルフとの間にできた”契りの儀”
という古き契約をご存知ですかな?」
主人公は王族とエルフとの間に交わされた古より伝わりし契約の事はもちろん知っていた。知っていたどころか、使者の到来をずっと待っていたのだ。
「まあ、名前だけはな。して何を我に求めるか?」
人間、そしてその優良種である”王族”に比べれても、さらに強大な魔力と、悠久にも思える時間を生きるエルフたち。人が畏怖する、最も神に祝福された高位種族と謳われる彼らだが、生殖能力が低く、少しづつその数を減らし、ゆっくりとしかし確実に滅びの道を歩んでいるという。
ある時、エルフを束ねる王がそのことを危惧し、ある手段をとることになる。
その手段とは、人間の中でもエルフの血を残す王族の男子と千年に一度エルフの姫君が交わり、エルフに繁殖力の強い人の血を入れる事によって滅亡を防ごうというものであった。
それは人間を蔑み、気位の高いエルフたちにとって、まさにに苦渋の決断であり滅亡を避けるための最悪の選択に違いなかった。
「俺の子種が、お前達エルフの命運を握っているというわけか……?」
「……左様にございます」
「お前たちの姫君……ニィーナ姫は息災か?」
「はい。子種を受け入れる準備は万全かと」
7英雄の一人ニィーナ。兄を想うエルフの姫君。
主人公がその高貴で美しい姿に横恋慕した女。
人間の事情に疎いエルフたちの事、主人公の国を治める王は7英雄のリーダーであった兄セィルだと思っていることだろう。実際、主人公が謀略を駆使しなければ今頃至高の玉座には兄が座していたであろうから。
(俺の子を孕まねばならぬと知った時、ニィーナはどんな顔をするであろうか?
愛するセィルの子を孕めると喜びやってくるニィーナは……! クククっ!)
主人公は全身にたぎるドズ黒い何かを心の奥底に仕舞い込むと
「まぁ……いいだろう」
と王者の威厳で頷く。
エルフを前にしても一歩も怯まない皇帝に騎士や家臣から自然と声があがる。
「マイン・カイザー! 我らが偉大なる皇帝!」 と。 |