はるか昔、歴史の闇の中で、魔法の奇跡が輝いていた時代―――
主人公・キルトは「凍てつく大地」に住まう魔族の王に仕える将校。
専門は「拷問」と「密偵による謀略活動」で、現代でいう情報仕官といったところだが、戦場での武勇に比べれば、マイナスのイメージを持つ職業柄、侮蔑の意味を込めて「拷問士」と呼ばれている。敵対する人間たちに、恐怖の代名詞の様に覚えられている魔族軍の「拷問士」を務める主人公だが、実は魔族ならぬ人間であった。
「キルト様、将軍がお呼びです」
エスリア公国の城を包囲する魔族軍の陣中、キルトのテントに伝令がやってきてそう告げる。キルトは冷笑すると、仮面を着けテントを出る。彼が「仮面の拷問士」と呼ばれる所以である。彼の顔には醜い火傷の痩があった。別段それを隠すためではないのだが、魔族の軍中にあって、ことさら人間であることをアピールしたくないためだ。
「城を取り囲んでから、どれくらい経ったであろうか」
元は大陸西方地域の大国ザクゼンの有力貴族の子弟であったが、内戦の末、家は滅び流転の中で生き延びるために手を血に染めてきた末に魔族の将と成り果てた主人公。
自分を追いやった者たちへ復讐をするために、少年時代、戦乱の業火の中での誓いを果たすため、主人公はこの大戦で大きな功を上げる必要があった。
より高い地位へ、力を蓄えやがては……!!
しかし主人公に活躍の場を与えられず、人間嫌いの将軍から閑職に追いやられていた。
主人公は、将軍や他の将が集まったいる大きなテントにやってくる。
「……キルトか。いよいよお前に出番をくれてやる。存分に働いて見せよ」
当初、人間を甘く見た将軍を諌めた主人公であったが、「拷問士が小賢しい」と一蹴され、魔族軍は力押しで城の陥落を計った。個々の力では魔族に敵わない人間ではあるが、集団戦での戦術に長けており、幾度となる攻勢も聖剣を駆る女騎士の軍勢の前に撃退されていった。後日知ることなるが、その聖剣を駆る女騎士こそ、姫騎士ミエルと謳われる華麗なる剣豪王女であった。
「あの女騎士の操る聖剣の前では、我ら魔族の魔力も失われる。
我ら魔将一騎当千と言えど、あの剣には敵わぬ。そこでお前の出番だ」
「聞くところ、人間の国にいた頃、将として勇名をはせたと聞く。
人間の得意な戦術とやらを披露して見せよ」
「御意………」
「して城を落とすのに何人欲しい? 普段から知略に誇った風のお前だ。
1千で十分だと言ってくれるかな?」
「兵は300もお預け頂ければ……」
「なぬ!? 城にまだ一千の兵がいる。それを300でか!?」
「はい。ただし、魔族の精兵をお貸し頂きたい」
「ぐ……むぅ……好きにしろ!!」
こうして主人公は兵300を率いて前線に出陣。
陣中のテントに篭っていた主人公は一転、馬上の人となる。
「敵は常に猪突猛進の魔族軍に油断しているだろう。さて、うまくいくか……」
主人公は密偵を各方面に放ち、万全の態勢で敵の動向を探る。
魔族たちが人間を甘く見ているとは言え、エスリアの兵はこれほど強かっただろうか?
隣国のルーフェン公国の英雄、聖人将軍クリストフ・エーベルヴァインや大国ザクセンの強兵ならまだしも、小国エスリアにこれほどの力があるのか?
そんな思いを巡らせていると副将が主人公に声を掛ける。
「……さま、キルトさま、各部隊予定通り配置につきました」
「よし、進軍する」
主人公の運命を大きく変えるエスリア城の戦いが始まろうとしていた。
血と獣液と、欲望と復讐と、絶望と悦虐と、制裁と悲劇に彩られた物語の幕が開かれる……!!
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