カオス・アリーナ壊滅から一年―――
アサギとさくらは東京湾上に浮ぶ人工島にいた。
そこは忘れられた街。
政府肝いりでつくられた巨大なはこもの「東京キングンダム・シティ」。
海上に浮かぶ第二の都心となることを期待されたが企業誘致に失敗。
住居施設や住人をターゲットにした商業施設も東京湾地下鉄の工事の大幅な遅れから交通の不便な海上の孤島と成り果て、ついに10年前に開発の全面中止、事実上捨てられた幻の都市となった。
その後は本州とを結ぶ唯一の出入り口、全長10キロに及ぶ東京キングダム大橋を伝って渡ってきた密入国者や犯罪者、無政府主義者、魔界から流れたきた住人たちの住処と化し、海上都市は世界有数の危険な街となった。
いくら捨てられた街、危険な住人の巣窟とはいえそこにも秩序がある。
市も立てば、アジア最大の娼窟もあり、中心部には繁華街もある。
生き抜くだけの強さか、強者への媚を忘れなければそこでは生きていけた。
島の中心部から少し離れた裏路地。
ビルの奥まった一室。
「お姉ちゃん大丈夫みたいだよ」
「任務中は隊長でしょう、さくら」
「あ! そうだったよね……隊長……へへ」
アサギとさくらは三人の対魔忍の消息を調査するために、この危険な街へやってきていた。
テロ組織潜伏の情報をもとに潜入捜査していた対魔忍3人であったが1週間ほど前から消息が途絶えたのだ。
アサギは持ってきたミニコンピュータをチェストに置くと電源を入れる。
そこには初老の域に達した男が映し出される。
「山本だ」
「部長、レストルームに辿り着いたわ。これより調査を開始します」
「うむ。くれぐれも注意してな。この件に関しはどうもキナ臭さを感じる」
「ええ、了解。対魔忍三人を倒した敵がいるとしたら、とても信じられないけど油断ならないわ」
「私の方でも気になることがあるので別方向でこの件を調べてみようと思う。
アサギとさくらはテロ組織のこと、先行した対魔忍三人の行方を洗ってくれ」
「了解」
調査第三部<セクションスリー>。
政府直轄の非合法機関であった対魔忍も、カオス・アリーナでの事件をキカッケに正式な組織として公安調査庁に組み込まれていた。
政府としては暴走気味の対魔忍を押さえつけるためであったが、部長に任命された防衛庁出身の山本信繁は、堂々と使える様になった予算を最大限利用して、対魔忍の装備の近代化を進め、忍び以外の航空・車両人員や整備人員なども編入、以前とは比べ物にならない機動性と攻撃力、諜報捜査能力を有する組織に変化していた。
「これからさっそく出るわよ、さくら」
「え~~~!? お姉ちゃん着いたばかりだよぉ!」
「隊長! それからこれを着て! この格好じゃあ、街を歩けないわ」
しばらくして二人の美女が薄汚れたビルから姿を表す。
「ひえ~~~、何でこんなの着なきゃならないの……?」
「この街にいる女は娼婦かマフィアの情婦、
さもなければマフィアの女ボスって決まっているの」
アサギとさくらは、露出の高い、身体のラインを強調する様な、如何にも娼婦ありなんという格好をしていた。
「男が声を掛けてきたら、すぐに断ったらだめよ。
今から客のところへ行くところだとか誤魔化すのよ」
「はーぃ、でもお姉ちゃん、その格好すごく似合ってるよ!」
「さくら……!!」「わっ! 隊長が怒った!!」
子供っぽくクスクス笑うさくらをアサギが追っかける。
そこには仲の良い姉妹の姿があった。
アサギが最愛の恋人・沢木恭介を失ったカオス・アリーナの悲劇から一年が過ぎていた……。 |